酒蔵訪問~岡崎酒造編~2022.02.28

こんにちは!アキヒコです。

今回の酒蔵勉強会は上田市にあります、「信州亀齢」醸造元の岡崎酒造。
信州亀齢は全国的に凄まじい人気。当店でもすぐに売り切れとなります。(汗)
佐久以外の酒蔵訪問は初。某日、ちょっとバクバクしながら私の妻と共に車を走らせました。

岡崎酒造は上田城のほど近く、柳町通りという道沿いに位置。
【岡崎酒造】

古くから北国街道の上田宿として発展。道幅は車1.5台分くらいで名前の通り、柳の木がたなびく石畳が綺麗に敷かれた昔ながらの街並みが新鮮でした。(詳しくはこちら https://yanagimachi-ueda.jp/)
【柳町通り】
岡崎酒造の他にも、そば屋、パン屋、焼き鳥店などもある話題のスポットです。

お話を伺ったのは岡崎酒造、岡崎謙一(けんいち)代表取締役。(以下、岡崎さん)
【左:岡崎 謙一代表取締役】
岡崎さんは私と同じくお婿さんです。
笑顔がやわらかく、気さくでお話上手。そしてブレない芯がある感じ。
岡崎酒造の杜氏を務める奥様の美都里(みどり)さんと二人三脚で今の信州亀齢を築き上げました。
長野や東京の試飲会、当店への配達でお会いした際に何度か会話しましたが、今回のように直接訪問してじっくりお話を聞くのは初めて。
そんな私にも包み隠さずに蔵の歴史、信州亀齢のこと、岡崎さんの考え、当店店主とのエピソードなど様々なことをお話し頂きました。最後には酒蔵の見学も。
とても、とても意外だった事実が。というのも、ちょっと前まで岡崎酒造は現在の人気とはかけ離れた状況だったということです。

人気銘柄となるまで

創業は1665年、今から357年前。
長らく創業は1703年だと伝えられてきました。ところが、この地域の歴史のあるお宅で1665年に岡崎酒造が酒造りをしているという記録が発見!現在、最古の記録であるため1665年を創業年と定めています。大きな規模の酒蔵ではありませんでしたが、代々酒造りを続けてきました。

先代は様々な事情で、番頭さんと呼ばれる社員さんに実質の酒蔵経営をお任せ。造りは期間中、毎年杜氏に来てもらうという形態。当時の酒質は良いとは言えず、とりあえず酒造りを続けているという感じでした。そこへ日本酒の冬の時代が到来し、岡崎酒造の売り上げは徐々に低迷していきました。
その際、先代は蔵の前の柳町通りを観光地化してお客様にお越しいただこうと考案。街づくりは成功をおさめましたが、お酒の販路は観光客向けである蔵の売店での直売、あとは問屋に普通酒を卸すというもののみに。その頃には岡崎酒造のお酒が欲しいところは皆無で、逆に岡崎酒造からマージンを渡してお酒を納めるという苦しい状況でした。当店のような酒販店との直接取引もゼロで、製造量も30~50石と現在の10分の1程度。酒蔵として本当に終わりかけていたと岡崎さん談。
それから岡崎さんの代へ。
跡取りである美都里さんは3姉妹の末っ子で、お姉さん達はそれぞれ漫画家や大手企業の会社員の道へ。そこで美都里さんは「だれもやらないなら。」と農大に進学しました。その農大の同期が岡崎さんです。美都里さんはその後、他の企業での勤務を経て岡崎酒造へ入社。岡崎さんによると、当時の美都里さんはガッツがあるという感じではなかったといいます。子育て優先の無理をしない働き方で、まずできることをやるという感じ。その間も売り上げはどんどん低迷していましたが、「今、振り返ると変にガチャガチャ蔵を立て直そうとしなかったことが良かったのかもしれませんね。」と岡崎さん。

岡崎さん自身は婿に入って10年は他の企業にて勤務。先ほどの番頭さんが定年退職するタイミングで岡崎酒造に入社しました。
なぜかというと、代わりに一人従業員さんを雇おうと試みましたが、岡崎酒造にはもう体力が残っていなかったから。
入社後、岡崎酒造はいろいろとボロボロだったとのこと。
岡崎さんは勉強や試行錯誤を重ね、そのなかで同じ上田にある宮島酒店の宮島さんに出会いました。場所は近いけれど厳格だったといいます。でも、その出会いが転機となりました。
そこからより努力を積み重ね、現在のような人気銘柄に。

小さな酒蔵だから

岡崎酒造の強みは?という問いに対し、「信州亀齢のイメージと味わいが実際に一致していること。」と回答いただきました。
「どの信州亀齢を飲んでいただいても、香り・甘み・スッキリ・フレッシュという酒質のズレがないことで、販売店や飲食店の方々にもお酒の説明がしやすくなっているかなあ。」と。
イメージとのズレがなく伝えやすいということで、信州亀齢を信頼してもらえる。販売店や飲食店の人を通じて信州亀齢というお酒がどんどん世の中に繋がっていけばと岡崎さん。
また、信州亀齢をこのような酒質にした理由は?という問いに対してですが、
岡崎さんと美都里さんがそういうお酒が好きというのが第一。
もう一つは小さな酒蔵だから、他の酒蔵に埋もれないよう何かインパクトを残したいと考えたから。
「一杯が美味しいお酒」を追求し、お客さんの印象に残る味わいを目指したためです。

ありのまま

当店店主の話になり、思い出は?と聞くと、一番には「歌がうまい。(笑)」ことが頭に浮かぶと。
飯山市の田中屋酒造店(銘柄:水尾)の田中社長とカラオケで歌の上手さを競っていたことが面白かったといいます。
そもそもの取引のきっかけは先述の宮島さんからの紹介で、「ひでちゃんにも会ってきなよ。」と宮島さんからの後押しがありました。
実は岡崎酒造との取引をはじめる前当店では同じく上田の和田龍酒造 (銘柄:和田龍、和田龍登水) との取引を開始していました。
そこで店主は「上田では和田龍をまずはやんなくちゃいけない。もっと言うと佐久をもっと盛り上げなくちゃいけない。」と言い、その話をうけて「あ、信用できる。」と岡崎さんは感じました。
うわべの上手くやろうとする話ではなく、まず最初に言いづらいことを伝えてくれたからです。

地域とともに

岡崎さんの中で酒蔵はその地域に支えられているという感謝があります。だから柳町通りをはじめ、もっとこの地域を盛り上げたいと。岡崎酒造のお酒を買ってもらい、近くの飲食店で食事をして頂くようなイベントを開催して地域を発信したいし、あわせてもっと地元の方が日常的に利用できるような柳町通りにしていければと教えてくれました。
思い入れのある商品は?と質問すると「信州亀齢 純米吟醸 稲倉棚田産ひとごこち」と回答。
日本の棚田100選に選出された上田市北東部にある稲倉(いなくら)の棚田。上田市が窓口となり酒米オーナー制度(詳しくはこちら https://bit.ly/3r49AUW)という施策を行っています。その棚田のひとごこち(酒米)で醸された信州亀齢のこと。岡崎さんの中で、このお酒は地域とともに盛り上がれるという意味で気持ちがより入っています。

私たち販売側への要望として、お酒の「印象に残る説明」をお願いしますと岡崎さん。
「お客様それぞれ、印象に残る説明の内容は違います。ニーズに合った説明をお酒の伝道師として伝えてほしい。」各酒蔵、お酒だけの一言や説明を深めていくために蔵訪問は続けていってほしいと背中を押していただきました。

お酒の楽しみ方

最後に蔵見学もさせていただきました。
蔵の入り口には昔のひな人形が飾られており、昔ながらの雰囲気とマッチ。
岡崎酒造の酒蔵はコンパクト。そのなかで最大限、お酒をつくれるようここ10年で少しずつ蔵の改修と設備投資を進めてきました。
最初に案内いただいた所が、瓶洗浄、火入れ、ラベル貼りを行う建屋。最近改修したため中はピカピカ。
【建屋内部】

次は麹室。新造して今年で3シーズン目。最初の1年目は、お酒から木の香りがすると指摘されたことがありました。
【麹室内部】

岡崎さんは言います。「麹室は大体、50年くらい使えます。お客様それぞれかと思いますが、50年のうち1年くらい木の香りがしても、それはお酒の個性・楽しみのひとつだと。そんな捉え方があってもいいのではないでしょうか。」
私も、年ごとのお酒の個性を楽しむのも趣があって素敵だと考えます。
それから仕込みタンクのある建屋へ。見学した際、タンクは全部で9つ。
タンクのある建屋の一部は冷蔵設備の整った大きな冷蔵庫になっており、そのなかにはタンクが数本入っていました。近年、造りの時期である秋~春の気温が上昇しているので、より安定的に発酵を行うためです。
【冷蔵庫内タンク】
岡崎さんは冷蔵庫のなかで、信州の冬をつくっていると言います。すごくキャッチ―でわかりやすい。この冷蔵庫内であれば10月~5,6月ぐらいまで造りを行う事ができます。
冷蔵庫以外のタンクでも、温度を下げるための装置(チラーなど)を用いて発酵が進められていました。
先代は今よりも大きな仕込みタンクを使用していました。岡崎さんの代になっても、先代から「使うかもしれないから。」と言われ、そのタンク達を保管していました。
ただ、そんなに製造量があるわけでもないし、清掃がしづらくお酒の出来を左右する衛生面においても良いことは無し。岡崎さんは先代と喧嘩をしながら今の形に舵を切りました。

まとめ?

訪問の最中に図星というか、私が個人的に気にしていることをズバリ言われドキッとしたことが。
「お父さん、偉大で逆にやりづらいですよね。」と。
岡崎さんは話します。
「うちは悪評が多かった分、良くなったら逆に応援してもらえたけど、お父さんは偉大で人望がありすぎてこんな感じで直接お話しないと蔵元との関係って築きづらいよね。」
鋭い。一言で表すとそんな心境でした。様々な経験を重ねてきた方だからわかるのかなと。
こんな若造にも心を寄せて頂けてると感じましたし、私の中で岡崎さんとの距離がより近くなった感じが。
岡崎さんのお話の中で、酒蔵勉強会をわたしに勧めた店主の意図も汲み取ることができ、ほんとに有難かったですし訪問してよかったなと。そして私が越えようとしているものはまだまだ分厚く、差を実感した訪問でもありました。

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