キーワードは「風土」。天空の大地 テールドシエルのワイン造り2023.08.05
小諸市の大注目ワイナリー「テールドシエル」。
2015年ワイン用葡萄の栽培を開始。
2020年に自家醸造開始。
自家醸造を始めて間もないですが、すでに個人のお客様はもちろん、ホテルやレストランからもひっぱりだこで常に品薄の状態です。
テールドシエルの造りのテーマは「風土を映すワイン」「ブドウがなりたいワイン」です。
具体的にどういうことなのか、人気の秘密は一体なんなのか・・・
6月下旬、社長の池田さん、ブドウ栽培とワイン造りを行っている桒原(くわはら)さんにお会いし、醸造所や交流の場になっているワインハウスを見せていただきながらお話を伺ってきました。
【標高950mで育つ糠地のブドウ】
自社のブドウ畑のある「糠地(ぬかじ)」という地区の標高はなんと最高950m!
ワイナリー名になっている「テールドシエル」は「天空の大地」という意味なのです。
醸造所からの眺めは圧巻。雲が近く、池田さんの奥様が整えている小庭の花畑には蝶が飛び回り、
少し見下ろすと傾斜のあるブドウ畑や小諸一帯が見渡せます。
前述通り、ブドウ畑は標高900m以上。
桒原さんに糠地の風土の特徴や、ブドウを育てる上で不安などはなかったのかお聞きしてみました。
最初はシャルドネやピノノワールなど、冷涼な土地で育ちやすい早熟系の品種を植えていたそうですが
信州は雨のない秋が長いため「晩熟品種もいける」と踏み3年ほど前からシラー、カベルネフランなどを植え始めたそうです。
糠地では風の影響がうまく作用し、ブドウに悪影響を及ぼす凍害がないがないようです。そこが高地での栽培のポイントかもしれないですね!
ちなみに桒原さん、「もはや950mでも低く感じる。もっと高いところでブドウを育ててみたい」と笑っておっしゃっていました(笑)
糠地のもうひとつの特徴は「霧」。
「霧下そば」で有名なように昼夜の寒暖差で霧が多い場所でもあります。
この霧のおかげでブドウに貴腐菌がつくんだそうです。それも面白いので分けずに一緒にプレスしているとのこと。
これもひとつの立派な風土!
また、醸造所の近くに広がる社長の奥様が手入れしているガーデンもとても素敵で蝶がたくさん飛んでいました。
糠地はもともと「蝶の里」と呼ばれ、ガーデンに咲くフジバカマというお花を好む稀少な蝶の品種「アサギマダラ」も毎年500頭ほど訪れるんだそうです。
「ちょうどピノノワールの収穫時期にアサギマダラが飛んでくるのでそれもブドウ収穫時期の目安になります。
もちろんブドウの熟度も見るけど、周りの環境からも教わることが多いんです。」と教えてくださいました。
ちなみに現在畑は6hほど。東京ドーム1.3個分です。
草刈りなどはシルバーさんに頼みつつ、その大きさを桒原さんほぼ一人で管理しているそうです。
更に醸造もこだわりを持って行っているためなかなか生産量を増やすことが出来ないのも現実。
当店も地元の酒販店として責任をもって大切に管理し、お客様にお渡ししていく所存です。
自社で栽培している品種は以下です。
黒ブドウ:ピノノワール、メルロ、シラー、カベフラ
白ブドウ:シャルドネ、ピノグリ、ソーヴィニヨンブラン、リースリング、シュナンブラン、サヴァニャン
桒原さんは特にジュラワインがお好きだそうで、現在サヴァニャンはブレンドに使っているけど
いずれ単独で出してみたいとのこと!楽しみです。
【バスケットプレスがピュアな果汁のポイント】
もう一つ注目すべきなのは24~48時間かけてゆっくり果汁をしぼる機械「バスケットプレス」。日本での導入例はごくわずかです。
初めて拝見しましたがなかなかの大きさと迫力でした。
通常ブドウの圧搾はバルーン式だと2~3時間ほどで終了しますが
バスケットプレスで時間をかけて丁寧にしぼることで、雑味のないクリアなブドウそのものの味を更に表現できるようになります。
バスケットプレスでしぼったシャンパーニュの原液を飲んだ時に「絶対これを使いたい!」と思い池田社長を何とか説得して導入。
醸造所の天井の高さもバスケットプレスに合わせたそうです。
収穫されたブドウはまず一晩冷蔵室でしっかり冷やしてから、10℃まで室温を落としてしぼるそう。
そして「24時間以上かけてしぼる」といってもほったらかしにはできません。
ほぐして再度プレスする工程を挟むため、仕込の時は寒い中泊まり込みでバスケットプレスを見張っているとのこと・・・
時間をかけてようやく抽出された果汁は、酸化防止のためポンプで送らずホースを用いて重力でタンクまで運ばれます。
(なのでバスケットプレスは一段高い場所に置かれています。)
バスケットプレスは外に果汁が染み出す開放型。それによる酸化は気にならないのかお聞きしたところ
「もちろん極力無駄な加圧や酸化は抑えていますが、逆にその程度の酸素との触れ合いはワインになって抜栓したときに広がりあるいい風合いに繋がるんです。」
とのことでした。なるほど!過保護にしすぎても深みが出ないのですね・・・!
バスケットプレスは果肉が潰れていくというよりも、ゆっくり力をかけていき、皮が限界に達したときにパツッと弾けて裂け目から果汁が染み出していくイメージなので
長い間果肉が酸素に晒されづらいのもポイントですね。
【ワインに風土を映すための造りとは】
栃木で消防士をしていた桒原さんがワインと出会ったのは、
栃木県足利市のココファームワイナリーでのボランティアでした。
ココファームの原点は1950年代、特殊学級(現在の支援学級)の中学生たちによって開墾された葡萄畑です。
障がいを持つ方、福祉関係の方々と触れ合いながら作業する中で「ワインは風土と人が造るもの」という考えに至ったとのことでした。
奥様(池田社長の娘さん)との出会いもココファームだったとのこと。「ここにいるのはすべて運命と偶然ですね」と笑って教えてくださいました。
霧がでたり、日当たりが良かったり、風通しがよかったり、斜面のある地形だったり、蝶がたくさん飛んでいたり・・・
そのような糠地の風土をワインに余すところなく映すため、自然酵母で無補糖無補酸、亜硫酸もなるべく添加しない造りを行っています。
そうなると酸化や温度変化にも弱く、外部の菌にも攻撃されやすくなりますから醸造中には非常に神経を使います。
バスケットプレスの項目でも書いてある通り、温度管理をシビアに行うことで風土をワインに映すことを実現してきました。
「ただ単に自然酵母で無補糖無補酸、亜硫酸を使わないナチュラルな造りがしたいというわけではなく、
風土をワインで表現したい!と思ったときに最善だったのがこのスタイルだけ。
あくまでゴールは「風土の表現」であって「ナチュール・自然派」はただの手段なんです。」と力強くおっしゃっていたのが非常に印象的でした。
その言葉には販売側である我々も深く共感しました。
わたしがワイナリーや酒蔵にいく度に思うのは
「これをきちんとした環境で長期保存できたらどれほど価値ある商品になるだろう」ということです。
ワインはブドウで造られます。日本酒は米とその土地の水で造られます。
その土地のその年の農作物を未来に残しておける手段なんてワインや日本酒以外にそうないはず。
しかし、貯蔵場所や経営の関係上、なかなか長期貯蔵に踏み切れない製造元も多いのです。
いつか、今この時の信州の風土を切り取った長野ワイン・信州地酒という宝を長く未来に残せるような仕事を
酒屋としてやってみたいと思っています。
テールドシエルのワインは現在入荷量の都合上、皆様へのご案内が難しい状況なのが正直なところです。
当店からご案内が行った際にはぜひともゲットしていただき、
糠地の風土をじっくり楽しんでみていただきたいです。
醸造所から少し下った場所にテールドシエルが経営する宿泊可能な施設もございます。
☆NUKAJI WINE HOUSE(糠地ワインハウス)
完全予約制で1日1グループ限定。
屋外のテラスでのバーベキューパーティなども可能
テールドシエル 糠地ワインハウス
ちなみに・・・
当店には現在アビーズバインズがテールドシエルで委託醸造したナチュールワインがございます。
もしよろしければご検討ください!↓
アビーズバインズ