酒蔵・ワイナリー見学記~いざわの畑編~2023.12.22

11月のだいぶ冷え込んだ早朝。そんな中、快く対応してくださった立科町の「いざわの畑」園主の伊澤さん。※写真は別日
伊澤貴久(たかひさ)さんは元証券マン。10年前からワイン用ブドウの栽培を開始し、ワインは委託醸造ですが自身も積極的に醸造へ関わるスタイル。
銘柄名の「Coteau des Chevrettes(仏語で「ヤギのいる丘」)」の通り、見学当日もすぐ近くでヤギがムシャムシャと草を食べていました。フンはたい肥として利用します。
開口一番、「今年は特異な年で黒ブドウはかなり熟しましたよ。」と伊澤さん。
畑は標高720mに位置し地形は丘状。この土地は桑畑~生食用ブドウ畑という変遷を辿ります。当時は「ブドウ団地」と呼ばれるほど生食ブドウ栽培が盛んでした。現在、このあたりで生食用ブドウを栽培する農家さんは1軒のみ。とても手間がかかる為で、ほとんどが10年も経たずにやめてしまったといいます。その後は荒廃地となり、伊澤さんが開墾しワイン用ブドウ栽培を始めました。最初に植えた品種はソーヴィニヨンブランとカベルネソーヴィニヨン。今ではシャルドネ、メルロー、カベルネフランなどを栽培。今回見学させていただけた畑は3か所でした。
立科への入植の経緯ですが、11年前に栽培を考え県内を周っていた際、町がワイン用ブドウの試験栽培を行おうと担い手を集めていたこと、近くの蓼科牧場に伊澤さんの奥様の実家の古い別荘があったため、立科をよく知っていたからという流れです。
立科は蓼科山からの南から北に下る地形。主に北斜面が多く、本来であればブドウ栽培には不向き。伊澤さんの畑は丘の南斜面に黒ブドウを、丘の上の平坦地に白ブドウを植えています。丘の上なので風通しが良くぶどうが病気にかかりにくい一方、台風の時には垣根が傾くことも。また丘の上なので野生動物が多く、特にムクドリの大群には悩まされています。電気柵や食害防止のネットを掛けるなど手間がかかります。「良質なぶどうが獲れますがその分手がかかる。」と伊澤さん。

別の畑へ移動し説明を受けました。最初の畑もそうでしたが、全体的に草がぼうぼうではなくきちんと整備されていたことが印象的。
伊澤さんのブドウ栽培のモットーは土地に合う品種を栽培するということ。
このあたりは土が粘土質で栄養分とミネラルが豊富。伊澤さんが話していたことは、「ヨーロッパとは違い日本は温暖で土の養分も豊富。生育が早く樹齢5年目にはそこそこ美味しいぶどうが出来る。問題点は日本では雨が多く病気が出やすいこと。手をかけないと病気=カビの菌が蓄積し、病気にかかりやすくなる。一生懸命、手をかけて菌の蓄積を防げている畑か否かが違いの出てくる部分です。」と。
伊澤さんが入植した当初は町の公社がワイン用ブドウの試験栽培を推進していましたが途中、方針の変更で町は担い手をサポートする立場となり、伊澤さんは町の試験圃場の担い手探しに奔走しました。現在では町内で10名ほどがブドウ栽培を行います。「立科でブドウの輪が広がってきてよかったです。」と謙虚な伊澤さん。

「これだけブドウ栽培にこだわる伊澤さんが醸造までやったらどうなるんだろう。」という清水屋店主の問いに対しては、
「醸造の時期は2日に一度は、醸造所へ足を運びます。委託醸造は任せっきりでも勿論できますが、自分で過程を見なければどうしてこうなったかという要因がわからない。美味くできた、できなかったではなく、なぜそうなったのかを自身で把握し翌年の醸造に反映させたい。」とお答え。「委託醸造を始めて8年、ある程度の希望は聞いて頂いているが委託醸造費や醸造の自由度、より良いワイン造りを求めると自家醸造の方が良いと思います。ただ自家醸造にはまとまった資金が必要。一番のネックは「人」です。」と伊澤さん。

最後にご自宅のワインセラーへ。ご自宅は立派な古民家で広いお庭と蔵がありました。一見、どこにもセラーは見当たらず。ご案内頂いたセラーはその蔵の内部でした。厚い土壁による断熱効果で家庭用エアコンがあれば季節を問わず温度を一定に保てるようです。中ではワインたちが出荷の時を待っていました。5,000本ぐらい保管できますが、結構、手狭になってきていて「別の保管場所は考えなきゃですね。」と伊澤さん。

「いざわの畑」設立のきっかけは、自らの手で生み出したものを人々に提供できたら良いなというお考えから。そこで農業をやると決心し、前職で見聞きしたことからワイン用ブドウ栽培にたどり着きます。知り合いや昔の仕事仲間にはお酒やワイン好きが多い伊澤さん。ブドウを栽培して終わりではなく、ワインまで造ることでこうした人たちとこれからも繋がることが出来る。立地的に立科は都内からも近く、皆さまにも来て頂きやすい、という伊澤さん。農作業が好きで当初はそれのみでも楽しかったといいます。今は自分で美味しいと思えるワインを追求する農業も醸造も真剣に取り組む伊澤さんです。他のワインとどう差別化を図るかが課題とおっしゃっていました。
清水屋へ要望は?という問いに対しては、地元のレストラン、料理店のお料理に寄り添えるワインとして選んでもらえるように当園のワインを幅広く紹介してほしい、というご意見を頂戴しました。私たちも工夫して参ります。同時に伊澤さんのワインに対する想いや背景をお伝えすることを決して忘れぬよう、取り組んで参ります。