酒蔵・ワイナリー見学記~シクロヴィンヤード編~2023.12.04

秋晴れの10月。お邪魔したのがシクロヴィンヤードさん。(以下:シクロ)
東御市八重原地区に位置するワイナリーでメディアでも大注目。最近ではJR東日本新幹線内の冊子「トランヴェール」の表紙を飾り、大々的に紹介されています。

当日、醸造所へ向かうと園主の飯島さんと奥様にお出迎頂きました。
園主の飯島規之(いいじま のりゆき)氏は元プロサイクリストという経歴の持ち主。ワイナリー名やワインの銘柄名にもその面影があります。
シクロのワインはボリューミーで果実味があり、樽とうまく調和しているイメージ。
シクロのワイン造りはブドウの素性を生かし切るということが第一で、樽も樽香が利きすぎないように細心の注意を払います。「うちのワインは着崩さず、フォーマルに着こなすイメージ。」と飯島さん。
本当に真っすぐ、私の中ではワイン造りはもちろん自社畑のブドウに向き合っているという印象。余談ですが、私の妻が飯島さんの太もも~ふくらはぎまでの筋肉が美しいと驚愕。

ワイン造りを志すきっかけですが、現役時代に海外を訪れた際、歓迎パーティーで振舞われた現地のワインが本当に美味しかったこと。そしてワインには仲間とワイワイ、恋人と洒落たレストランでなど人々を笑顔にするパワーがあり、笑顔のあるシチュエーションにはワインが似合う。そんなワインを自身でも作れたら…。ということ。
飯島さんが当初、シャトーメルシャンやマンズワインに不明点を伺った際、なんでも包み隠さずに教えてもらったことがあり、両社の担当者が言っていたことは「お互い良いブドウ・ワインで日本ワインを底上げし、盛り上げていけたら良いんです。」と感動したことがありました。

飯島さんが辿り着いた地が八重原。
八重原=お米の産地と思い浮かべる方も多いかもしれません。意外ですが、八重原は江戸後期まで人々が定住していない土地でした。理由は「水」。
20数キロの水路を築いて入植がスタート。飯島さん曰く、八重原の米農家さんの多くは歴史が比較的浅くまだまだ当時のフロンティア精神溢れる方々。米の産地としては著名ですが、長らく果樹が栽培されていなかった土地で「いいブドウつくって!」と飯島さんの入植当初から周りの農家さんが応援し、力になっています。

醸造所での話はそこそこに、飯島さんは私たちを自社畑へご案内。
畑での作業は飯島さんご夫婦とアルバイトの方、計3名で従事します。
見える範囲には自社畑が3か所あり一部の畑は隣の立科町に跨るもの。見学した畑はその中のひとつで南東の傾斜地に広がる畑。日照ムラにならないよう、ブドウの樹の列は南北方向にありました。日本では希少な造成されていないブドウ栽培に適した方角の傾斜地がそのまま残っておりました。もともとは手付かずの藪だった場所のようです。
八重原は前述の通り人々の入植からの歴史が浅く、この畑も当時から藪。さらに傾斜地で米作りに適さない土地ということもあり手付かずになっていました。今ではモニュメントのようになっている開墾中に出てきた大きな石が藪だったという痕跡を残す程度です。
畑の標高は660mほどですが、放射冷却が起きるような気象条件ですと軽井沢のアメダスのある999m地点と同様の気温になることもあります。おかげで昼夜の寒暖差が大きくブドウ栽培には好条件です。見学当日、958mにある同市千曲川右岸の旧東部町のアメダスの記録した最低温度が3.8℃、一方シクロの畑は2℃。ですから春先には霜の被害に遭うことも。
畑の土壌は強粘土質。梅雨のような長期間の降雨で、地中にジワジワ浸透するような性質で畑の地中に水分量のセンサーが設置されていますが、雨が止んだ後に反応する感じ。一度水分を含むとぬかるんで機械が入れなくなるほどです。反面、カラッカラに乾けば夕立程度の雨ですと地中までなかなか浸透しません、まるで水分を弾くが如く。水分の浸透には時間がかかりますが、浸透すればなかなか逃がさない土壌です。また保肥力もあり、あまり肥料の投入を行わなくてもブドウの生育には問題ないんだとか。
ブドウ栽培は野生動物との闘いという側面も。ブドウの美味しさを人間だけが知っている訳もなく畑には、たぬき・きつね・ハクビシンがブドウを目当てにやってきます。当初はネットを張って対応していましたが、彼らが引っかかり暴れ、樹の支柱を倒したり、挙句には食い破ってグチャグチャにしたり。現在では電気柵を導入。その電圧は動物にとってかなりの衝撃で、一度痛い目に合うと彼らも学習をするため結果、食害はかなり減少。
畑を広げる予定はありますかという問いに対しては「現状、これよりも広げてしまうとやり切れない部分が出てくるので。今でもブドウに関してやりたいことがあり拡大は考えていません。」と飯島さん。
※中央が飯島さんご夫婦
終わってみると畑での見学時間が大部分で畑での飯島さんの説明は熱と力強さがありました。

先日開催した当店の「わいん試飲会」。そこへ飯島さんご夫婦にもお越しいただきました。真剣なまなざしでテイスティングされていた姿が印象的。
毎度感じることですが、直接出向かないと解からない・イメージできないことだらけ。直接お伺いして醸造所やブドウ畑の前で園主の方にお話を聞く機会はいいなあと思います。そして当店の試飲会にお越し頂くなど、互いに行き来して交流するかたちを続けていけたらと思います。なんだかまとめになっておりませんが、そんなことを思った今回の訪問でした。