田中屋酒造店 水尾ツーリズム2024.08.16

今回は長野県飯山市の蔵元、奥信濃に良酒あり”水尾”で有名な田中屋酒造店さんにお邪魔させて頂きました。
同じ信州でも伺う機会の少ない土地飯山。途中、田中屋酒造店専務の田中匠さんからご紹介いただいた地元の蕎麦屋、六兵衛さんでお昼休憩。火口(ボクチ)という飯山市の富倉地区で打たれている伝統あるお蕎麦や笹寿司をいただきました。最高に美味しく、伝統的な店内には県内外の日本酒がズラリと並びついつい見入ってしまう。
六兵衛さんから車で数分、田中屋酒造店さんに到着。飯山市は県内で最も低い千曲川沖積地(ちゅうせきち)に広がる飯山盆地を中心に南北に長い地形の地域。日差しは強いも西の関田山脈か、東の三国山脈からか心地の良い風が流れる。併設の直営店で専務の匠さんにお出迎えしていただき、インパクトあるアフロヘアと満面の笑みに一瞬で取り込まれる。
今回は専務の匠さんと副杜氏のタケシマさんにご案内頂きました。
田中屋酒造店は明治6年創業。水尾山のふもとより湧き出る天然水を使い、良い水、良い米、基本に忠実を信念に掲げるお蔵。

・基本に忠実なお酒造

仕込み水には水尾山の湧水を使用、いい蒸ができればお酒造りの7割は完成。良い蒸米ができればいい麹ができ、良い麹ができればいい酒母ができる、いい酒母ができれば良い醪になり良いお酒ができると蒸米の造りを大切にしているのが伺える。
田中屋では熱々の蒸米を素手でひねりつぶす「ひねり餅」という工程を行う。多くが数字で管理される現代の中で、数字以外の細かな部分は職人自らの手や感覚を重視している。最初は手のひらが火傷するほど大変な工程をあえて用いている所に酒造りへの強いこだわりが感じられる。酒造りの初期に行われる蒸の工程は単純ながらも難しいと副杜氏タケシマさんのお言葉。
造り蔵のなかには今では貴重なホーロータンクが堂々と並ぶ圧巻の景色。このタンクの素材はほぼ鉄、表面にガラス質の釉薬(ゆうやく)が焼き付けられている。酸やアルカリにも強いこのタンクは一つで1.5トンの大容量。また室内には前面に冷気がいきわたる工夫のされた袋状の空調機が目に入る。
築150年の歴史ある蔵には立派な梁と壁には細かな柱が並び、飯山という豪雪地域に対応した作りになってるという。
急な階段を登り切った奥にはサッカー元日本代表の中田英寿氏も訪れた松尾大社の神棚が。京都最古の神社であり酒造第一祖神で酒の神様として崇拝されている。蔵の中でも特に大切な酛部屋と麹室には神棚がある。現代は衛生面や造りの技術の発展もあり酒が腐造してダメになる事はないが明治初期頃まではどんなに腕のいい杜氏でも腐造する事が多く、酒造りはまさに神頼み的な部分も多かった事から、現代でも大切な造りの工程の際は神主さんを招き神事をしていただくという。また壁には歴代杜氏のお名前が墨書きしてあり改めて歴史のある蔵元だなと感じた。
清水屋スタッフ一人の目に入り質問したのが長い棒状の温度計であり酵母の種類によって細かく分けられており、微量ながらも混ざらないよう細部まで徹底している事、酵母の驚くべき生命力の強さも改めて認識できる。
中でも驚いたのは全量泡あり酵母での仕込み!!発酵が進むにつれ、醪が泡立ちかさ高になることで溢れる危険性、泡が付着するのでかがむような体制での清掃、現代でこそ機械でかき混ぜながら泡消しができるが、昔は寝ずの泡番人が付いてた等、話しを伺えば伺うほどデメリットしかない泡あり酵母だが、明らかに泡なし酵母とは酒質が違い、ふくらみと香りのある酒ができる。発酵が進むと泡が増え、ピークが過ぎれば泡は消え発酵が終わる、泡とは発酵状態の反映で数値やデータでは表せない「表情」が伺える事を最大のメリットとし現代では泡なし酵母が主流の中、県内では希少な全量泡あり酵母に拘り、また田中隆太社長曰く「自然でいいじゃん!」との一言にも強い信念が伺える。

所感が大切とはいえ、酒造りはチーム。複数人が携わる中でデータ管理も必要。自動で日本酒度、アルコール度数を計測する最新機器も見せていただく。
お酒は飲んでしまえば終わり、後々残せるのはデータや記録のみ。
2.3年後にそのデータが役に立つ事もあり未来の自分を助ける為に何でも気になった事は残すようにしていると見せていただいた用紙には細かなデータの宝がびっしり書かれている。
ただ機械はその機器が”正常である”事が大前提の怖さや難しさもあるという。「偶然ではなく必然を目指して」、「一升瓶で買ってもらえる酒を造る」と副杜氏のタケシマさんからさり気無く出たこの言葉が強く印象に残る。
「どんなに良い酒を醸造しても、その後の工程で劣化させたら意味がない」と瓶詰めの際に使う充填機にも酸化防止の為、空気に触れないようなひと工夫も見受けられたり、火入れ後の熱もお酒には大敵でありパストクーラーの導入も行ってたり、ラベリングの際には紫外線をカットしたりと、製品化の工程においても妥協せず、消費者に良いお酒を届けたいという気持ちが表れてる。

・水尾 純米大吟醸 壱八

テイスティングはお酒4種類に対して野沢菜付け、鯖の水煮、トウモロコシなど「身近な食材」でのペアリング。
中でも気になったのは、”水尾 純米大吟醸 壱八” お米は木島平産金紋錦100%使用。
実は以前蔵元よりご案内いただくも、今までご縁のなかった銘柄!
呑んでみると穏やかな旨味と甘みあり滑らかな舌触りの綺麗な味わいに、嫌味のない苦みと渋みが最高な味わいで一瞬で取り込まれるお酒。ペアリングには梅酒の仕込みにも使われた梅の上にクリームチーズ。
この組み合わせに驚くもコレがまた合う!お酒の舌触りとチーズの触感、お酒の綺麗さと梅の上品さが絶妙にマッチ。
「味わいではなく、形でのペアリング」という匠さんの言葉がスッと入り込んでくる新しい感覚のペアリング。
多くの蔵元が山田錦で挑む中、田中屋酒造店はあえて地元木島平産の金紋錦を使用し2023年関東信越国税局 酒類鑑評会 純米吟醸の部で「優秀賞」を受賞。
雑味が良い意味で特徴の金紋錦は賞を取るのが難しい中、見事高評価を受けた壱八が清水屋店頭にドカンと近日中には並びます。

・水尾 破龍

もう一本なんとしても紹介したいお酒が、”水尾 破龍” 飯山産山恵錦100%の軽快でなめらかなお酒。
日本酒の枠を「破」り、日本酒の新しい時代を「龍」の如く切り開くよう願いが込められた銘柄。
爽やかな香りと旨味をしっかり残した13%の低アル、飲み疲れせず軽く楽しめる。温度帯の幅も広く冷やしても、40℃程のぬる燗でも旨いが花冷え10℃(野菜室)程度がゆっくりと香りがほころび適温かもしれない。
この破龍は清水屋店頭にも現在並んでおり、まさに龍の勢いで人気上昇中!ぜひ清水屋へお越しください。
ちゃっかり自店の紹介も最後に混ぜてしまいましたが、専門的なお話も多く非常に濃い内容の酒蔵見学となりました。
透明感のある酒で多方面から愛され続ける田中屋酒造店の銘柄を多く取り扱えている現状に感謝と、蔵元直々に伝えていただいた熱意を今後より一層、多くのお客様に伝えていかなければと改めて実感する内容となりました。
清水屋 翠川

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